アマゾンのミサイル食らって沈むトイザラス

米トイザラスが約5600億円の負債を抱えて経営破綻しました。 大きな事件でしょうが、なぜか「同情に値しない」という印象。 理由を考えてみましたら、何回か子ども連れてプレゼント買いに行ったときのレジの対応がよくなかった。──でも、ただそれだけ?

photo credit: Thomas Hawk It's a Sad Day if You're a Kid in Emeryville via photopin (license)

レジの対応はお粗末な日本トイザらス

わたしが、
2人の子どもを連れて日本のトイザらス行ったのは。
たった4~5回だけのことです。
10歳くらいまでの子どもって、
オモチャに異常に興奮して喜んでくれますやん。
うちのおねえちゃんは「プリキュア」で、
息子は歴代戦隊もの
なんせキャーキャーワーワー喜んでくれるんで、
親父としてもワクワクして出かけるところですオモチャ屋さんって。
しかし、
接客クオリティーとは恐ろしいもんだと思いますね。
特に気持ちが盛り上がってるときだけに、
ただ、
店員さんの対応が良くなかったという印象だけで、
会社がつぶれたと聞いてもなんとも感じない。
あー、トイザらスね、
そりゃそうでしょって感じで。
ま、
1回だけならまだしも、
買い物するたびに毎回レジがもたついてましたから。
書き入れ時だからしかたないのかもしれませんけど、
だったら店員さんが少なくてぜんぜん追いついてないのに、
わざわざセット価格とか限定割引とかおまけがついてくるキャンペーンとか、
よけい計算がややこしくなるような売り方しなかったらいいのに。
買いますがな、
そんなめんどくさい特典なくても。
本国アメリカはどうだったかわかりませんが、
どうもそのへん、
日本文化になじんでなかったように思いますね。

トイザラスを沈めたのはアマゾンじゃない

トイザラスはアマゾンにやられた
みたいな、
そんな印象が強くて、
メディアのヘッドラインでも
>ネット販売の急伸に押され業績低迷
という表現が圧倒的多数です。
ほんとうにそうなんでしょうか。
たしかに、
トイザラスはアマゾンとは因縁の関係で、
2000年には両社のあいだで独占契約が締結され、
アマゾンで玩具を販売できるのはトイザラスだけっていう縛りがかかりました。
ところがその後、
どっちが悪いんだかよくわかりませんが、
アマゾンがトイザラスの対応を不満として、
他の玩具業者でもオモチャ売れるようにしてしまった。
で、
怒ったトイザラスがアマゾンを訴えてモメて決裂して、
しかたがないので独自サイトを立ち上げたのが2006年。
そんな経緯があります。
トイザラスとアマゾンが戦略提携を結んだ2000年といえば、
ITバブルまっただ中。
>これからえらいことになるぞ、
>黒船が来るぞ、
>アマゾンっていうのがすごいらしいぞ

って、
なんか浮かれてましたな。
わたしは98年にITで独立したものの、
主力のはずのERP開発が追いつかず商品としての体をなさず。
いなかでアパートの1室にお籠もりして、
ひたすら受託案件のためのプログラムを書いてましたので、
バブルの喧噪も耳に入らず、
おこぼれすらなし。
そんなわたしの閉塞状態を尻目に、
短期で巨額の利益を得たIT成金がいっぱいいて、
ITやってたらなんでも儲かるぞって煽り立てるような風潮もありましたナ。
調子こいてる若ゾウたちの中には、
>アマゾンって調子こいてないか?
>モデルはわかるけど儲かってなさすぎだろ。
>先のヨミが甘いよねぇ。

とかなんとか、
小馬鹿にしてたやつもたくさんいてました。
実際アマゾンの株価は底をはうような低迷で落ちこむ一方、
実はヤバいんじゃないのかっていう疑念は若ゾウじゃなくても世間に蔓延してて、
とにかく早く目に見える利益を確保しないと株主が黙ってない空気でした。
いっぽうトイザラスは、
98年にEC事業を開始したものの、
ITはド素人なもんで、
超かき入れ時のクリスマスシーズンに、
受注の一部をイブ当日までに配達できないという大失態。
しかも2年連続
評判は下がるし売上も下がるしで、
踏まれたり蹴られたりどつかれたりシバかれたり。
アマゾンから見たら、
トイザラスが実店舗で培った在庫管理や需要予測といったスキルがほしかったし、
長年安定したブランド力もおいしかったし、
当時まだ「本とCD」の販売所っていう印象を払拭できるチャンスでもあった。
トイザラスにとっては、
ぐちゃぐちゃになっているECのバックヤードをアマゾンに丸投げすることで、
消費者に対する恥さらしを食い止めるチャンス。
しかし、
ITを駆使してワークフローを再構築していくっていうのが情報化時代の経営効率化の根幹なのに、
そこを依存型で逃げて丸投げしてしまっては命取りになります。

オムニチャネル化を怠ったことが致命傷

ついこないだのクロネコヤマトにしても、
アマゾンが悪者になって、
クロネコヤマトさんお気の毒って感じで、
おかげで宅急便の値上げが同情的に受け入れられたのは記憶に新しいところ。
今回も
>トイザラスはアマゾンに潰されたようなもん。
>アマゾンえげつない。
>トイザラスかわいそう。

っていうような空気になることは容易に想像つきます。
しかしね、
アマゾン関係ねぇわ。
オムニチャネル化を怠って、
地べたのリアル店舗だけで勝負っていう小売店がもうあかんという構造です。
商品が欲しかったら足を運ぶしかないっていうのは、
消費者に対して不親切なんですから。
(どうしても地べたのリアル店舗だけで勝負したいっていうなら、
せめて接客クオリティーは磨いてください。)

かといって、
ネットショップと地べたのリアル店舗を両方もっとけばOKかというような、
そんな単純な話でもありません。
システム一元化して、
しくみがインテグレートしてないと。
マルチチャネルとオムニチャネルのちがいなどについては、
まえに別のところで触れてますから参考にしていただくとして、
顧客に対するそこの利便性を軽視してしまったっていうのが今回は致命傷。
もっと早くわたしのところに相談に来てたら(来るわけないけど)
ちゃんと言うて聞かしてやって(聞くわけないけど)
負債総額5600億円の0.00001%
5万6千円

危機回避できてたのにな(できるわけないやろ!)
ちなみに5600億円って、
どのくらい大きい額か、
ピンとこないと思いますので、
ここ最近の大型倒産と比較してみますと、
戦後製造業最大の負債額となったタカタは1兆円超。
全産業で戦後最大は、
2000年の協栄生命保険で4兆5296億円です。

トイザラスはやる気なかった

ブランドもあって規模もでかいガリバー企業が、
自分を丸飲みするほど勢いのある会社にネット事業を丸投げするって、
ずいぶんアホなことしたんやなぁって感じですけど、
トイザラスって2005年に身売りの準備をはじめてます。
PE(プライベートエクイティ)を含む企業連合が買い手として見つかって、
LBO(レバレッジドバイアウト)っていうやり方で買収されちゃったんですが、
このときの経営陣の心境ってどんなんだったんでしょうね。
投資がお仕事の人にとってはリターンが判断基準のすべてで、
経営なんてお金をつくるひとつの手段にすぎず、
人間模様を理解しない面がありますから、
長期戦略で人を育ててサービスの品質を上げて‥‥
みたいな眠たいことは言ってられなかったんでしょうか。
もしかして投げやり?
レジでの接客態度のぼやぼや感を思い浮かべながら、
>トイザラスってやる気ないかもなぁ~
って、
もしそうなら従業員さんたちのことがちょっと心配です。
早めにゲームを卒業して、
ベイブレード(=現代版コマまわしのオモチャ)に目覚めたウチの息子はマシですが、
いまの子どもはオモチャに手で触れて遊ぶことが減ってます。
組み立てたり積み上げたり、
回したり転がしたり破ったり倒したり‥‥
しない
息子は、
受験が近づいてベイブレードも封印しました。
日本のトイザらスは当面営業継続するみたいですけど、
どっちみち、
わたしがオモチャ屋さんのレジに並ぶことはもうないですね。